2017年7月28日金曜日
大隈鐵工所事件
先日,社会保険労務士会の研修で,大隈鐵工所事件(最高裁判所第三小法廷昭和62年9月18日判決)について,講師の某弁護士が
「おおすみ」鐵工所と読んだので,「おおくま」は間違えなんだと思ったが,
気になって調べたら,やっぱり「おおくま」が正しかった。
そもそも,大隅(おおすみ)と大隈(おおくま)なので,漢字が違うやんか。
ちなみに,東芝柳町工場事件(最高裁判所第一小法廷昭和49年7月22日判決)は,
やなぎ「ちょう」と読みます。
柳町 (横浜市)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%B3%E7%94%BA_(%E6%A8%AA%E6%B5%9C%E5%B8%82)
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2017年7月14日金曜日
割増賃金に関する判例(医師の年俸)
原審は,「本件合意は,上告人の医師としての業務の特質に照らして合理性があり,上告人が労務の提供について自らの裁量で律することができたことや上告人の給与額が相当高額であったこと等からも,労働者としての保護に欠けるおそれはなく,上告人の月額給与のうち割増賃金に当たる部分を判別することができないからといって不都合はない。」
として,上告人の割増賃金及び付加金に関する請求をいずれも棄却しましたが,
本最高裁判決は,
「,割増賃金をあらかじめ基本給等に含める方法で支払う場合においては,上記の検討の前提として,労働契約における基本給等の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であり,上記割増賃金に当たる部分の金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは,使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである。
本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金を年俸170
0万円に含める旨の本件合意がされていたものの,このうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったというのである。
そうすると,本件合意によっては,上告人に支払われた賃金のうち時間外労働等に対する割増賃
金として支払われた金額を確定することすらできないのであり,上告人に支払われた年俸について,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。
したがって,被上告人の上告人に対する年俸の支払により,上告人の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできない。」
として,破棄差し戻しをしました。
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やはり,最高裁は,時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分が明確になっているかどうかを重視しているようです。
問題点は,時間外労働等に対する割増賃金について,時間外労働をする前にあらかじめの賃金債権の放棄の特約として認められるかどうかですが,最高裁が採用する労働者の自由意思に基づく同意の理論によると,あらかじめの賃金債権の放棄が認められる可能性はゼロだと思われます。
また労働基準法37条には,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制することがその趣旨に含まれており,この点からも労働基準法37条は厳格に解されることになるでしょう。
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判示事項
全文 最高裁判所HP
判決理由中の引用判例
昭和47年4月6日最高裁判所第一小法廷判決・民集 第26巻3号397頁
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51990
平成6年6月13日最高裁判所第二小法廷判決・集民 第172号673頁
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=62698
平成24年3月8日最高裁判所第一小法廷判決・集民 第240号121頁
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=82096
平成29年2月28日最高裁判所第三小法廷判決・裁判所時報1671号5頁
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86544
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として,上告人の割増賃金及び付加金に関する請求をいずれも棄却しましたが,
本最高裁判決は,
「,割増賃金をあらかじめ基本給等に含める方法で支払う場合においては,上記の検討の前提として,労働契約における基本給等の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であり,上記割増賃金に当たる部分の金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは,使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである。
本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金を年俸170
0万円に含める旨の本件合意がされていたものの,このうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったというのである。
そうすると,本件合意によっては,上告人に支払われた賃金のうち時間外労働等に対する割増賃
金として支払われた金額を確定することすらできないのであり,上告人に支払われた年俸について,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。
したがって,被上告人の上告人に対する年俸の支払により,上告人の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできない。」
として,破棄差し戻しをしました。
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やはり,最高裁は,時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分が明確になっているかどうかを重視しているようです。
問題点は,時間外労働等に対する割増賃金について,時間外労働をする前にあらかじめの賃金債権の放棄の特約として認められるかどうかですが,最高裁が採用する労働者の自由意思に基づく同意の理論によると,あらかじめの賃金債権の放棄が認められる可能性はゼロだと思われます。
また労働基準法37条には,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制することがその趣旨に含まれており,この点からも労働基準法37条は厳格に解されることになるでしょう。
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地位確認等請求事件
平成29年7月7日 最高裁判所第二小法廷 判決
結果
その他
判例集等巻・号・頁
判示事項
医療法人と医師との間の雇用契約において時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていたとしても,当該年俸の支払により時間外労働等に対する割増賃金が支払われたということはできないとされた事例
裁判要旨
参照法条
全文 最高裁判所HP判決理由中の引用判例
昭和47年4月6日最高裁判所第一小法廷判決・民集 第26巻3号397頁
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51990
平成6年6月13日最高裁判所第二小法廷判決・集民 第172号673頁
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=62698
平成24年3月8日最高裁判所第一小法廷判決・集民 第240号121頁
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=82096
平成29年2月28日最高裁判所第三小法廷判決・裁判所時報1671号5頁
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86544
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2017年6月23日金曜日
解雇予告手当(札幌)
実務上では、解雇予告手当の請求ではなく、解雇の無効を争って、地位確認の請求をする方が多いのではないでしょうか?
労働契約法第16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定しており、
使用者による解雇は、解雇権の濫用にあたるとして無効になることが多いからです。
解雇が無効(地位確認の請求が認容)となれば、使用者には解雇予告手当よりも多額の支払いが命じられます。
以下は、解雇予告手当に関する記載です。
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A 解雇予告手当の要件事実
『労働事件審理ノート(第3版) 山口幸雄 三代川三千代 難波孝一編 2011年 判例タイムズ社』 稲吉彩子=鈴木拓児 107頁
1訴訟物
労働契約法第16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定しており、
使用者による解雇は、解雇権の濫用にあたるとして無効になることが多いからです。
解雇が無効(地位確認の請求が認容)となれば、使用者には解雇予告手当よりも多額の支払いが命じられます。
以下は、解雇予告手当に関する記載です。
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A 解雇予告手当の要件事実
『労働事件審理ノート(第3版) 山口幸雄 三代川三千代 難波孝一編 2011年 判例タイムズ社』 稲吉彩子=鈴木拓児 107頁
1訴訟物
①労基法20条1項本文に基づく解雇予告手当支払請求権
②遅延損害金請求権
③労基法114条に基づく付加金支払請求権
2請求の趣旨
①被告は,原告に対し,**円(解雇予告手当の額)及びこれに対する平成○年○月○日(解雇日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
②被告は,原告に対し,**円(付加金の額)及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
③①につき,仮執行宣言
3原告:労働者側の主張(請求原因)
(1)雇用契約の締結の事実
①雇用契約締結日
②合意した労務の内容
③合意した賃金の内容(月給,日給,時給の別及びその額,締切日及び支払日)
(2)解雇の意思表示の事実
①解雇予告の有無,解雇予告がある場合はその日
②解雇日
③解雇予告日の翌日から解雇日までの日数
(3)解雇予告手当の額
4被告:使用者側の主張
(1)予想される主張
①解雇事実の否認(積極否認)
任意退職(合意解約又は労働者側の退職の意思表示)の主張が考えられる。
②労基法20条第1項但書所定の除外事由の存在(抗弁)
③労基法21条所定の除外事由(抗弁)
④消滅時効
B解雇予告手当の解釈
『新訂版 労働基準法の教科書 労務行政研究所編集部 2011年 労務行政』
188頁
「解雇の予告がなされても,予告期間が満了するまでは労働関係は有効に存続するのであるから,その期間中労働者は労務の提供をしなければならず,使用者はこれに対して賃金をしはらわなければならない。したがって,予告期間中に労働者が自己の都合により欠勤したときは,通常の労働関係と同様賃金を減額することができ,また,使用者の都合によって当該労働者を休業させたときは,第26条の規定により休業手当を支払わなければならない。このような考え方によれば,30日前に解雇予告した直後から使用者が当該労働者の就労を拒否すれば,その期間中の所定労働日数に対して平均賃金の100分の60に相当する休業手当を支払えば差し支えないこととなり,予告に代えて30日分の平均賃金の支払を義務づけている本条の脱法が行われるとする見解も考えられるが,予告期間中といえども労働者には民法第536条第2項のよる賃金全額請求権が確保されており,労働関係は正常に存続しているので,これを違法と解することはできない(昭24・12・27 基収第1224号)
206頁
「本条の解雇予告除外認定は,解雇の効力発生要件ではなく単なる事実確認行為と解される結果,本認定が適正になされなかったとしても,それによって権利侵害が生ずるわけではないから,その面で,これの取消しを求める行政訴訟は成立しないし,行政不服審査法に基づく審査請求を行うこともできないと解する。」
『労働関係訴訟 渡辺弘 2010年 青林書院』 65頁
「相対的無効説を前提にして,労働者が解雇無効の主張を断念した場合に,使用者に対して請求できるのは,解雇予告手当の支払か,30日分の未払賃金の支払かという問題があるが,この点に関する下級審の裁判例は,両方の見解があるし,実務的に,解雇され,解雇予告手当の支払を受けていない労働者が原告となって,解雇予告手当を訴訟物として選択して,その支払請求をしてくれば,上記の判例が採る相対的無効説によっても,認容される例がほとんどであると考えられる。また,上記の相対的無効説により,使用者が解雇の際に解雇予告手当の支払をせず,その後も支払がない場合には,労働者が労働契約の終期を解雇の時点から30日後として扱って,未払賃金の請求をしても,認容され得ると考える。
『労働契約解消の法律実務 石嵜 信憲編 柊木野一紀 宮本美恵子 2008年』 76頁
「ところで,即時解雇事由が存在する場合は,除外認定がなくとも,その解雇の効力自体は有効です(上野労基署長(出雲商会)事件=東京地判平14・7・30労判825-88)。労基法違反が残ることになりますが,即時解雇事由が存在しますので実質的に法違反とまではいえず,送検手続をとることはないというのが行政庁の見解です。」
『労働法 第2版 西谷敏 2013年 日本評論社』 405頁
「ここでいう,労働者の責めに帰すべき事由とは,即時の解雇をも正当化するほどの事由であり,労働者の非違行為を理由とする懲戒解雇が有効であっても,当然にここでいう除外事由にあたるわけではない。」
『労働法 第11版 菅野和夫 弘文堂 2016年』 734頁
「また,解雇予告のもう1つの除外事由である「労働者の責めに帰すべき事由」も,当該労働者が予告期間を置かずに即時に解雇されてもやむをえないと認められるほどに重大な服務規律違反または背信行為を意味する。懲戒解雇が有効と考えられる場合にも,このような観点から判断して解雇予告は省略すべきではないと認められる場合がありうる。解雇予告に関するこれらの除外事由は,産前産後・業務災害に関する解雇制限の除外事由と同じく行政官庁の認定を要する。この認定は上記の解雇制限と同様に,行政官庁による事実の確認手段にすぎず,行政官庁の認定を受けないでなされた即時解雇が認定を受けなかったことのゆえに無効になるものではない(事例として,上野労基署長(出雲商会)事件-東京地判平14・1・31労判825号88頁」
『労働契約法 第2版 土田道夫 2016年 有斐閣』 654頁
「解雇予告制度は,解雇(使用者による労働契約の一方的解約)を対象とする制度であるから,労働者による一方的退職や合意解約には適用されない。また,解雇の予告は要式行為ではないが(文書でも口頭でもよい),解雇を帰結する以上,明確に行われれる必要がある。解雇予告手当については,賃金支払の原則(労基24条)および消滅時効(同115条)が適用される。」
『新基本法コンメンタール 労働基準法・労働契約法 西谷敏・野田進・和田肇編 日本評論社』
古川陽二 64頁
「解雇の予告は,使用者が労働者に対し,確定的に解雇の意思を明示することを要する(全国資格研修センター事件・大阪地判平7・1・27労判680号86頁)。また,解雇の予告は,解雇の日を特定して行わなければならない。したがって,不確定な期限を付した予告や売上げが一定額に満たない場合には契約を解除するなどの条件付の予告は,本条の解雇予告には当たらない(労基局(上)295頁,クラブ「イシカワ」事件・大阪地判平17・8・26労判903号83頁)
解雇の予告は,使用者が一方的になす労働契約の解除の意思表示であるから,民法上はこれを撤回することができない(民540②)。しかし,解雇予告の撤回によって,労働者の法律上の地位が不安定な者にならない場合には,労働者の自由な判断に基づく同意を条件に,これを認めてもさしつかえないと解される(労基局((上)296頁,昭25・9・21基収2824号,昭33・2・13基発90号)。
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2017年6月20日火曜日
退職届・辞職届の撤回・取消し
最近では,労働者が軽率に辞職を口走るという従来の事案とは真逆の,労働者は会社を辞めたいのに使用者が辞めさせてくれないという事案が多数発生しているため,労働者の退職の意思表示が,辞職なのか合意解約の申込みなのかは,客観的な状況に基づいて慎重に判断することになります。裁判例は,労働者保護の見地から,原則として合意解約の申込みに該当すると解しています。
大隈鉄工所事件=最三小昭62・9・18労働判例504号6頁により,労働者の退職の意思表示が辞職に該当する場合は,使用者の退職を承認する権限を有する者(人事部長など)に対して,辞職の意思表示が到達すると,退職の効力は生じるので,もはや辞職の意思表示を撤回をすることはできません。
労働者の退職の意思表示が,合意解約の申込みに該当する場合は,使用者の承諾があるまでは,合意解約の申込みを撤回をすることができます。
大隈鉄工所事件=最三小昭62・9・18労働判例504号6頁は,労働者の退職願の撤回を認めた原審について,破棄差戻をしました。
(公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会のHP
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/03093.html
「1 私企業における労働者からの雇用契約の合意解約申込に対する使用者の承諾の意思表示は、就業規則等に特段の定めがない限り、辞令書の交付等一定の方式によらなければならないというものではない。
原審の右判断は、企業における労働者の新規採用の決定と退職願に対する承認とが企業の人事管理上同一の比重を持つものであることを前提とするものであると解せられるところ、そのような前提を採ることは、たやすく是認し難いものといわなければならない。したがって、被上告人の採用の際の手続から推し量り、退職願の承認について人事部長の意思のみによって上告人の意思が形成されたと解することはできないとした原審の認定判断は、経験則に反するものというほかはない。
3 そして、A部長に被上告人の退職願に対する退職承認の決定権があるならば、原審の確定した前記事実関係のもとにおいては、A部長が被上告人の退職願を受理したことをもって本件雇用契約の解約申込に対する上告人の即時承諾の意思表示がされたものというべく、これによって本件雇用契約の合意解約が成立したものと解するのがむしろ当然である。以上と異なる前提のもとに、A部長による被上告人の退職願の受理は解約申込の意思表示を受領したことを意味するにとどまるとした原審の判断は、到底是認し難いものといわなければならない。」
『労働法 第11版 菅野和夫 弘文堂 2016年』 705頁
「労働者の一方的解約としての辞職(退職)の意思表示は,合意解約の場合と異なり使用者に到達した時点で解約告知としての効力が生じ,撤回しえない。ただし,意思表示の瑕疵による無効または取消(民法93条から96条)の主張はなしうる。」
『新基本法コンメンタール 労働基準法・労働契約法 西谷敏・野田進・和田肇編 日本評論社』
荒木尚志 408頁
「労働者が退職の意思表示を行った場合,それが「合意解約の申込み」と解釈されれば,使用者が承諾するまでは,信義則違反等の特段の事情のない限り,撤回可能である(通説・判例)。これに対して「辞職の意思表示」の場合,使用者に到達した時点で撤回不能となり,2週間の経過により(民627),雇用関係解消の効果が発生する。このように,両者は概念上は明確に区別され,その効果も異なっている。しかし,現実には,退職に関する意思表示はいずれか明確でないものが少なくない。辞表の提出は辞職(解約告知)で,辞職願は合意解約の申込みというべきかもしれないが,一概にそうもいえない。口頭の意思表示の場合はさらに不明確である。両者の法的効果の違いと労働者の保護を考えると,「辞職の意思表示」と解するためには,明確にそう解しうる状況が
必要で,いずれか曖昧な場合には,合意解約の申込みと解し,労働者による撤回可能性を認めるべきであろう。」
『労働契約法 第2版 土田道夫 2016年 有斐閣』
「裁判例は,一方的解約の意思表示であれば事後の撤回が不可能であるのに対し,合意解約の申込みであれば許されることから,原則として合意解約の申込みと解釈しつつ,使用者の態度にかかわらず確定的に労働契約を終了させる旨の意思が明らかな場合にのみ一方的退職の意思表示と解している。しかし一方,この解釈を一貫させると,労働者は使用者の承諾がない限り労働契約を終了させることができないという不都合が生じうる。そこで,退職の意思表示は原則として合意解約の申込みに当たるが,予備的に一方的退職の意思表示を含むものと解し,使用者が承諾しない場合も,予告期間の経過によって労働契約は終了すると解すべきであろう。」
『労働関係訴訟 渡辺弘 2010年 青林書院』 113頁
「本問の事例もそうであるが,就業規則において,労働者が退職の意思表示をする場合は,会社によって定められた様式による「退職届」を提出することが要求されている場合が多い。もとより,労働者による発言が,確定的にその効果意思の発生の意思が表示されていると評価できるだけの法律行為であると評釈できるのであれば,就業規則に定める退職届の様式に従っていなくても,その法律行為が無効であるとはいえない。しかし,何ら書面を作成することなく,口頭による退職の意思表示が確定的に行われたと評価できる状況は,かなり珍しい事案であるといわなければならない。労働者にとって,労働契約によって就労することで,生活の資を稼ぎ,その時間のかなり多くを費やすのが普通であるから,そのような労働契約を解消して退職するというのは,極めて重要な意思決定である。その重要さに照らせば,単なる発言を,直ちに法律効果を生じさせる程度の確定的な意思表示であると評価するには,慎重な判断が必要である。実務でみられる事例の中でも,上司や代表者と衝突する過程の中で,仮に「こんな会社,辞めてやる!」と口走ったというような事例は少なくないが,それが,確定的な意味での退職の意思表示と評価できるかは,前後の状況にもよるが,慎重な検討が必要であろう。もとより,退職の意思表示が口頭のものであるとしても,それは,客観的に当該労働者が退職することを意図して,客観的な行為を積み重ねているというものであれば,退職の意思表示と評価することも可能である。口頭による退職の意思表示をしてから,何日間も出社せず,音信を絶っていたり,退職のために会社から貸与されている鍵や携帯電話の返還の手続を行ったり,社会保険終了の手続を採ったり,失業給付のために必要な離職表の記載事項について交渉したり,それを受領するなどし,年次有給休暇の取得可能日を計算して,退職日を確定させる等の退職を前提とする具体的な行動が重なっていることによって,確定的な退職の意思表示がなされたと評価できる場合であれば,書面による退職届はなくても,確定的な退職の意思表示がなされたと評価することは十分に可能になるのである。」
『実務労働法講義[改訂増補版][下巻] 岩出誠 平成18年 民事法研究会』 617頁
「退職願の撤回が認められるかどうかの要素として,退職願提出後の時間の経過が大きな意味を持つであろう。」
『基本法コンメンタール 第五版 労働基準法 金子征史・西谷敏=編 2006年 日本評論社』
藤原稔弘 108頁
「後者の合意解約の申込みの撤回の可否については,民法上の原則(民法五二一Ⅰ・五二四)に従えば,定められた承諾期間または承諾期間が定められなかった場合には相当期間,契約の申込みの撤回は不可能である。しかし,判例上は,使用者の承諾がなされるまで,信義則に反するような特別の事情がない限り,自由に退職願いの撤回ができるというルールが存在する(昭和自動車事件=福岡高判昭53・8・9判時九一九号一〇一頁,全自交広島タクシー支部事件=広島地判60・4・25労判四八七号八四頁,穂積運輸倉庫事件=大阪地決平8・8・28労経速一六〇号三頁,学校法人白頭学院事件=大阪地判平9・8・29労判七二五号四〇頁など)。」
『労働契約解消の法律実務 石嵜 信憲編 柊木野一紀 宮本美恵子 2008年』 31頁
「一般的に,「退職届と書かれた場合は,届出であり,それによって終了するため,辞職の意思表示である。退職願と書かれた場合はお願いであり,相手の承諾を前提としているので,合意退職の申込みである」と説明されることがあります。,しかし,この説明には疑問があります。辞職か合意退職かのとらえ方によって法律上の効果が異なるとすれば,労働者はどのような法律上の効果を望んで退職届や退職願を書いたのかということになるからです。労働者が望んだ法律上の効果に従って民法は法的効力を与えるわけですから,この効果意思を無視して記載形式だけで決めることはできません。筆者自身,十数年にわたり人事労務担当者に対して講演を続けていますが,いまだにこの区分が使用者にも十分に認識されていないといえますから。まして労働者が,辞職の意思表示になるか,合意退職の申込みになるのかということを認識して「退職届」,「退職願」,辞職届」,「辞職願」といった記載区分をしているとは考えられません。し,区分自体知らないのが一般的です。裁判例(全自交広島タクシー支部事件=広島高判昭61・8・28労判487-81参照)も,退職届((意思表示)は基本的には形式によらず,終身雇用制下の日本においては円満退職を基本とし,原則として合意退職の申込みがその趣旨だろうと考えています。ですから,「退職届」や「退職願」などが出されても,単に形式で判断せず,原則として労働者からの合意退職の申込みととらえるべきです(使用者の同意が得られない場合のため,予備的に辞職の意思表示が含まれていると考えます)。そして,『慰留されても絶対に辞めます』などと本人が特別の意思表示をしている場合には,はじめから辞職の意思表示ととられることになります。」
『労働法 第2版 西谷敏 2013年 日本評論社』 399頁
「そして,判例は,熟慮を経ない退職の意思表示が多いという実態を考慮して,労働者が確定的に退職の意思表示を固めていると見られる場合を除いて,できるだけそれを合意解約の申込みと解釈して,撤回の可能性を認めようとしている。しかし,合意解約の申込みに対して,決定権限を持つ者が承諾を与えると合意解約は有効に成立するので,申込みを受けた管理職が退職について単独で承諾を与える権限をもっていたかどうかが争われることもある。こうした判例の態度は,労働関係の現実を考慮したものと評価できるが,撤回可能性に関して,合意解約の申込みと一方的解約を峻別するなどの理論上の問題を残している。この問題は,退職など労働者に重大な不利益を与える意思表示について,一般的に撤回の可能性を認めるという法解釈もしくは立法措置によて解決されるべきである。」
『労働相談実践マニュアルVer.7 日本労働弁護団 2016年』 222頁
「使用者の一方的なイニシァテイヴのもとに合意解約が進められ,相談者(労働者)にとってそれが不本意な場合,上記のような問題はあるが,とりあえず退職届撤回の通知はしておくべきであろう。法律的に一方的な撤回が認められない場合でも,使用者が撤回に同意することもあるし,もともと撤回が認められる場合でも,撤回が遅れると使用者が承諾してしまい,撤回が認められなく危険があるからである。なお,撤回したにもかかわらず,退職金が振り込まれたような場合には,解雇の場合と同様,これを返還・供託するか,労働者においてこれを預かり保管し,以降発生する賃金の一部として受領する旨の意思表示を(内容証明郵便で)しておくべきである。これを怠ると労働者においても合意解約の成立を認めた(黙示の合意)として,後に裁判等で争うことは困難になる。」
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2017年6月18日日曜日
退職強要・退職勧奨
(1)退職強要・退職勧奨
使用者からの退職勧奨行為に対して,労働者がいったん退職の意思表示をしてしまうと,たとえ退職の意思表示に瑕疵があったとしても,その瑕疵を立証することは難しいとされています。
ただし,使用者からの退職勧奨行為が社会的相当性を欠く場合は,心裡留保・錯誤・詐欺・強迫により,労働者は退職の意思表示について無効・取消を主張することができる場合があります。
使用者からの退職勧奨行為が社会的相当性を欠く場合は,労働者は,慰謝料請求や逸失利益の損害賠償請求を主張することができる場合があります。
下関商業高校事件=最一小昭55・7・10労判345号20頁は,違法な退職勧奨行為があったとして,労働者からの損害賠償請求を認めました。
下関商業高校事件=最一小昭55・7・10労判345号20頁
(公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会のHP
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/90002.html)
「本件退職勧奨は、被勧奨者の自発的な退職意思の形成を慫慂する限度を越え、心理的圧力を加えて退職を強要したものであるまどとして、X1には金4万円、X2には金5万円とそれぞれの遅延利息の支払いを命じた。」
『労働法 第11版 菅野和夫 弘文堂 2016年』
「不況時の人員削減策や,定年前高齢者の削減策として,労働者に対して合意解約ないし一方的解約(辞職)としての退職を勧奨する場合には,その任意の意思を尊重する態様で行うことを要する。その場合,退職金の優遇は任意性の1つの有力な徴憑となろう。ただし,退職勧奨は解雇ではないから,人員整理目的であっても,整理解雇の4要件ないし要素を満たす必要はない。他方,社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な退職勧奨行為は不法行為を構成し,当該労働者に対する損害賠償責任を生じせしめうる。」
『労働相談実践マニュアルVer.7 日本労働弁護団 2016年』 220頁
「使用者が労働者に対して,合意解約を申し込んだり,申込の誘引をしたりするのが,退職勧奨と呼ばれるものであり,このうち,社会通念上の限度を超えた勧奨は退職強要と呼ばれる。
(略)退職勧奨は単なる申込またはその誘引にすぎないから,被勧奨者がそれに応ずる義務は一切ない。退職の意思がない以上,きっぱり断ればよい。」
『実務労働法講義[改訂増補版][下巻] 岩出誠 平成18年 民事法研究会』 617頁
「退職の場合において,それが,解約告知の退職届であれ,合意解約の退職願であれ,退職の撤回が認められない場合でも,退職時の状況によっては,その意思表示たる解約告知や合意解約に強迫や詐欺等の瑕疵があるとして無効や取消事由にあたるとされる場合がある。特に,リストラや懲戒解雇事由がある場合の退職勧奨などで問題となることが多い。」
『労働契約解消の法律実務 石嵜 信憲編 柊木野一紀 宮本美恵子 2008年』 36頁
「しかし,会社は退職届をとりたいと思うあまり,解雇事由がないにもかかわらず,『退職しなければ解雇しかない。解雇となれば,再就職も不利になるし,退職金の支給にも影響する。一度自分で身の振り方を考えてみてはどうか』などと退職を勧奨し,従業員が『それならば解雇よりも退職のほうがいい』と,渋々退職に合意するような事例がみられます。これでは,後日『あの退職の意思表示には瑕疵(強迫や錯誤)があった」と争われる可能性を残すことになってしまい,合意退職によってトラブルを防ごうとした意味がなくなってしまいます。」
『労働関係訴訟 渡辺弘 2010年 青林書院』 115頁
「退職の意思がもともとなかった労働者が,使用者側の人間によって退職の働きかけを受け,それに応じて退職を決意するのは,その労働者にとっては,不本意な決断であることは間違いないのである。したがって,その労働者にとって不本意な意思決定であったと主張するだけでは,詐欺又は強迫に該当するとはいえないのであり,その働きかけが,違法なものであることまで,労働者が主張,立証しなければならない。」
『労働契約法 第2版 土田道夫 2016年 有斐閣』 636頁
「もっとも,強迫の成立は容易には認められないし,錯誤についても,労働者が退職の意思表示に際して,転籍または退職以外に選択肢がない(会社に残ることができない)という動機を表示していない場合は動機の錯誤にとどまり,錯誤無効は認められないなど,民法上の意思表示の瑕疵の適用範囲は広くない。
(略)以上の不法行為による救済は,退職に至る過程で行われた勧奨・強要行為に関する救済であり,退職を余儀なくされたことについての救済ではない。また,認容される損害は精神的苦痛に対する慰謝料にとどまり,十分な救済とはいい難い。
(略)したがって,使用者が社会的相当性を欠く態様で退職勧奨を行ったり,職場環境への配慮を欠く行為を行った結果,労働者が退職を余儀なくされた場合は,不法行為のみならず,債務不履行(職場環境配慮義務違反)に基づく損害賠償責任を肯定すべきである。また損害についても,使用者の違法な行為がなければ雇用が終了せず,賃金不支給の事態も生じなかったという意味での相当因果関係があることから,経済的逸失利益(逸失賃金相当額)を含めて算定すべきであろう。こうした解釈によって不当な退職強要行為を抑制し,労働契約の適正な運営を促進する必要がある。」
『労働法 第2版 西谷敏 2013年 日本評論社』 400頁
「しかし,このような民法上の意思表示の瑕疵論に依拠する解決はきわめて不十分である。まず,「強迫」は,相手方に害悪が及ぶことを告げて,相手方に畏怖を与え,その畏怖によって意思を決定させることが要件となり,その適用範囲は広くない。現実には,労働者がそこに至らない圧力によって退職にかかる意思表示をすることが多いのである。また,使用者が(懲戒)解雇の可能性を示して退職を促した場合,(懲戒)解雇がなされたとしても客観的に無効であったとの理由で労働者の錯誤を認めるのは,説得力に欠ける。労働者は,実際上は(懲戒)解雇が有効かどうかを考えるというよりも,解雇自体を避けるために退職に合意する場合が多いからである。いずれにしても,意思表示の瑕疵に関する民法規定は,取引の安全への考慮もあって,厳しい要件の下に適用が認められるものである。労働者にとって重大な不利益となる意思表示については,こうした民法の一般理論とは別個に,それが「真意」にもとづくことが客観的事実によって証明されない限りその成立を認めない,といった独自の方法が確立されるべきである。」
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
使用者からの退職勧奨行為に対して,労働者がいったん退職の意思表示をしてしまうと,たとえ退職の意思表示に瑕疵があったとしても,その瑕疵を立証することは難しいとされています。
ただし,使用者からの退職勧奨行為が社会的相当性を欠く場合は,心裡留保・錯誤・詐欺・強迫により,労働者は退職の意思表示について無効・取消を主張することができる場合があります。
使用者からの退職勧奨行為が社会的相当性を欠く場合は,労働者は,慰謝料請求や逸失利益の損害賠償請求を主張することができる場合があります。
下関商業高校事件=最一小昭55・7・10労判345号20頁は,違法な退職勧奨行為があったとして,労働者からの損害賠償請求を認めました。
下関商業高校事件=最一小昭55・7・10労判345号20頁
(公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会のHP
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/90002.html)
「本件退職勧奨は、被勧奨者の自発的な退職意思の形成を慫慂する限度を越え、心理的圧力を加えて退職を強要したものであるまどとして、X1には金4万円、X2には金5万円とそれぞれの遅延利息の支払いを命じた。」
『労働法 第11版 菅野和夫 弘文堂 2016年』
「不況時の人員削減策や,定年前高齢者の削減策として,労働者に対して合意解約ないし一方的解約(辞職)としての退職を勧奨する場合には,その任意の意思を尊重する態様で行うことを要する。その場合,退職金の優遇は任意性の1つの有力な徴憑となろう。ただし,退職勧奨は解雇ではないから,人員整理目的であっても,整理解雇の4要件ないし要素を満たす必要はない。他方,社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な退職勧奨行為は不法行為を構成し,当該労働者に対する損害賠償責任を生じせしめうる。」
『労働相談実践マニュアルVer.7 日本労働弁護団 2016年』 220頁
「使用者が労働者に対して,合意解約を申し込んだり,申込の誘引をしたりするのが,退職勧奨と呼ばれるものであり,このうち,社会通念上の限度を超えた勧奨は退職強要と呼ばれる。
(略)退職勧奨は単なる申込またはその誘引にすぎないから,被勧奨者がそれに応ずる義務は一切ない。退職の意思がない以上,きっぱり断ればよい。」
『実務労働法講義[改訂増補版][下巻] 岩出誠 平成18年 民事法研究会』 617頁
「退職の場合において,それが,解約告知の退職届であれ,合意解約の退職願であれ,退職の撤回が認められない場合でも,退職時の状況によっては,その意思表示たる解約告知や合意解約に強迫や詐欺等の瑕疵があるとして無効や取消事由にあたるとされる場合がある。特に,リストラや懲戒解雇事由がある場合の退職勧奨などで問題となることが多い。」
『労働契約解消の法律実務 石嵜 信憲編 柊木野一紀 宮本美恵子 2008年』 36頁
「しかし,会社は退職届をとりたいと思うあまり,解雇事由がないにもかかわらず,『退職しなければ解雇しかない。解雇となれば,再就職も不利になるし,退職金の支給にも影響する。一度自分で身の振り方を考えてみてはどうか』などと退職を勧奨し,従業員が『それならば解雇よりも退職のほうがいい』と,渋々退職に合意するような事例がみられます。これでは,後日『あの退職の意思表示には瑕疵(強迫や錯誤)があった」と争われる可能性を残すことになってしまい,合意退職によってトラブルを防ごうとした意味がなくなってしまいます。」
『労働関係訴訟 渡辺弘 2010年 青林書院』 115頁
「退職の意思がもともとなかった労働者が,使用者側の人間によって退職の働きかけを受け,それに応じて退職を決意するのは,その労働者にとっては,不本意な決断であることは間違いないのである。したがって,その労働者にとって不本意な意思決定であったと主張するだけでは,詐欺又は強迫に該当するとはいえないのであり,その働きかけが,違法なものであることまで,労働者が主張,立証しなければならない。」
『労働契約法 第2版 土田道夫 2016年 有斐閣』 636頁
「もっとも,強迫の成立は容易には認められないし,錯誤についても,労働者が退職の意思表示に際して,転籍または退職以外に選択肢がない(会社に残ることができない)という動機を表示していない場合は動機の錯誤にとどまり,錯誤無効は認められないなど,民法上の意思表示の瑕疵の適用範囲は広くない。
(略)以上の不法行為による救済は,退職に至る過程で行われた勧奨・強要行為に関する救済であり,退職を余儀なくされたことについての救済ではない。また,認容される損害は精神的苦痛に対する慰謝料にとどまり,十分な救済とはいい難い。
(略)したがって,使用者が社会的相当性を欠く態様で退職勧奨を行ったり,職場環境への配慮を欠く行為を行った結果,労働者が退職を余儀なくされた場合は,不法行為のみならず,債務不履行(職場環境配慮義務違反)に基づく損害賠償責任を肯定すべきである。また損害についても,使用者の違法な行為がなければ雇用が終了せず,賃金不支給の事態も生じなかったという意味での相当因果関係があることから,経済的逸失利益(逸失賃金相当額)を含めて算定すべきであろう。こうした解釈によって不当な退職強要行為を抑制し,労働契約の適正な運営を促進する必要がある。」
『労働法 第2版 西谷敏 2013年 日本評論社』 400頁
「しかし,このような民法上の意思表示の瑕疵論に依拠する解決はきわめて不十分である。まず,「強迫」は,相手方に害悪が及ぶことを告げて,相手方に畏怖を与え,その畏怖によって意思を決定させることが要件となり,その適用範囲は広くない。現実には,労働者がそこに至らない圧力によって退職にかかる意思表示をすることが多いのである。また,使用者が(懲戒)解雇の可能性を示して退職を促した場合,(懲戒)解雇がなされたとしても客観的に無効であったとの理由で労働者の錯誤を認めるのは,説得力に欠ける。労働者は,実際上は(懲戒)解雇が有効かどうかを考えるというよりも,解雇自体を避けるために退職に合意する場合が多いからである。いずれにしても,意思表示の瑕疵に関する民法規定は,取引の安全への考慮もあって,厳しい要件の下に適用が認められるものである。労働者にとって重大な不利益となる意思表示については,こうした民法の一般理論とは別個に,それが「真意」にもとづくことが客観的事実によって証明されない限りその成立を認めない,といった独自の方法が確立されるべきである。」
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辞職(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
(1)民法627条1項の予告期間の延長について
期間の定めのない労働契約の場合で,労働者が辞職をするときにおいて,予告期間である2週間(民法627条1項)より長く定めた就業規則や労働契約の定めの有効性については,
有効説と無効説に分かれているようです。
無効説の裁判例として,高野メリヤス事件=東京地判昭51・10・29労判264号35頁が引用されることが多いようです。
高野メリヤス事件=東京地判昭51・10・29労判264号35頁
(公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会のHP https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/00425.html)
「法は、労働者が労働契約から脱することを欲する場合にこれを制限する手段となりうるものを極力排斥して労働者の解約の自由を保障しようとしているものとみられ、このような観点からみるときは、民法第六二七条の予告期間は、使用者のためにはこれを延長できないものと解するのが相当である。」
『労働法 第11版 菅野和夫 弘文堂 2016年』及び
『新基本法コンメンタール 労働基準法・労働契約法 西谷敏・野田進・和田肇編 日本評論社』
には記述がありません。(高野メリヤス事件について,判例索引には引用無し。)
*なお,労働者が予告期間もなく突然退社し,会社に損害が発生した場合は,会社からの損害賠償請求が認められることがあります。
ケイズインターナショナル事件=東京地判平4・9・30労判616号10頁
(公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会のHPhttps://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/06032.html)
では,労働者が突然退社したことにより損害を被った会社が、元社員との間で合意したとする200万円の損害賠償の支払を求めたところ,請求の一部が認容(200万円のうち70万円)されました。
*なお,完全月給制の場合は,民法627条2項が適用されます。
(2)無効説
『労働契約法 第2版 土田道夫 2016年 有斐閣』 633頁
「使用者は,退職の予告期間を民法627条1項の2週間よりも延長する規定を設けることもある。この種の規定も,民法627条が強行法規である以上,労働者の一方的解約(退職)には対抗できない。したがってまた,労働者が延長規定に違反して退職したことを理由とする退職金の不支給も違法とされる。」
『労働法 第2版 西谷敏 2013年 日本評論社』 398頁
「労働契約について当事者の解約の自由を定め,雇用は解約申入れの日から2週間経過することによって終了すると定める民法627条(もっとも,完全月給制の場合には,解約の申し入れは,翌月以降に対して,しかも当月の前半に行わなければならない(627条2項))は,労働者からする解約(任意退職)については強行規定と解される。そこで,2週間よりも早い時期の申し入れを義務づける就業規則条項や個別合意は無効である。」
『基本法コンメンタール 第五版 労働基準法 金子征史・西谷敏=編 2006年 日本評論社』 藤原稔弘108頁
「任意退職は,民法上,解雇と同一の規制に服し,期間の定めのない雇用契約の場合,二週間の予告期間を置けば,「いつでも」,つまり特別理由を要することなく,契約を解約することができる(民六二七Ⅰ,ただし,「期間によって報酬を定めた場合[完全月給制など]には,二項および三項で予告期間の例外が定められている。)。また判例によると,労働者の退職の自由を制限する規定(退職する場合には使用者の許可を得なければならないする規定や,予告期間を一ヶ月や半年に延長する規定)が存在しても,民法六二七条一項は,労働者の退職の自由を定める限りにおいて強行規定であるから,右のような就業規則の規定は効力を生じない(高野メリヤス事件=東京地判昭51・10・29判時八四一号一〇二頁,平和運送事件=大阪地判昭58・11・29労経速一一八八号三頁,日本高圧瓦斯工業事件=大阪高判昭59・11・29労民三五巻六号六四一頁)。
『労働契約解消の法律実務 石嵜 信憲編 柊木野一紀 宮本美恵子 2008年』 23頁
「民法627条の予告期間を超えて辞職を引き延ばすことはできない」
(3)有効説
『実務労働法講義[改訂増補版][下巻] 岩出誠 平成18年 民事法研究会』 618頁
「就業規則に特別な定めのない限り,通常は民法627条1項に従い,2週間前などの必要な予告期間をおけば労働契約は終了することになる。」
『労働関係訴訟 渡辺弘 2010年 青林書院』 112頁
「この解約に関する民法の規定は,任意規定であるから,労働契約等によって別異の合意をすることができる。」
(4)有効説と無効説の両説の表記
『労働相談実践マニュアルVer.7 日本労働弁護団 2016年』 209頁
「問題は,予告期間を2週間より長く定めた就業規則や労働契約の定めの有効性である。この点,民法627条は,労働者の不利益に変更することができない強行法規である(2週間以上の予告の定めは無効)とする説と,労働者の退職の自由を不当に拘束しない限り,2週間以上の予告期間を定めた合意も有効とする説がある。後者の考え方によれば,1か月程度の予告期間を設けることは許されよう(但し,さらに長期のの場合には,退職の自由を不当に拘束するものと評価されることが多くなろう)。」
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
2 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。
(1)民法627条1項の予告期間の延長について
期間の定めのない労働契約の場合で,労働者が辞職をするときにおいて,予告期間である2週間(民法627条1項)より長く定めた就業規則や労働契約の定めの有効性については,
有効説と無効説に分かれているようです。
無効説の裁判例として,高野メリヤス事件=東京地判昭51・10・29労判264号35頁が引用されることが多いようです。
高野メリヤス事件=東京地判昭51・10・29労判264号35頁
(公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会のHP https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/00425.html)
「法は、労働者が労働契約から脱することを欲する場合にこれを制限する手段となりうるものを極力排斥して労働者の解約の自由を保障しようとしているものとみられ、このような観点からみるときは、民法第六二七条の予告期間は、使用者のためにはこれを延長できないものと解するのが相当である。」
『労働法 第11版 菅野和夫 弘文堂 2016年』及び
『新基本法コンメンタール 労働基準法・労働契約法 西谷敏・野田進・和田肇編 日本評論社』
には記述がありません。(高野メリヤス事件について,判例索引には引用無し。)
*なお,労働者が予告期間もなく突然退社し,会社に損害が発生した場合は,会社からの損害賠償請求が認められることがあります。
ケイズインターナショナル事件=東京地判平4・9・30労判616号10頁
(公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会のHPhttps://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/06032.html)
では,労働者が突然退社したことにより損害を被った会社が、元社員との間で合意したとする200万円の損害賠償の支払を求めたところ,請求の一部が認容(200万円のうち70万円)されました。
*なお,完全月給制の場合は,民法627条2項が適用されます。
(2)無効説
『労働契約法 第2版 土田道夫 2016年 有斐閣』 633頁
「使用者は,退職の予告期間を民法627条1項の2週間よりも延長する規定を設けることもある。この種の規定も,民法627条が強行法規である以上,労働者の一方的解約(退職)には対抗できない。したがってまた,労働者が延長規定に違反して退職したことを理由とする退職金の不支給も違法とされる。」
『労働法 第2版 西谷敏 2013年 日本評論社』 398頁
「労働契約について当事者の解約の自由を定め,雇用は解約申入れの日から2週間経過することによって終了すると定める民法627条(もっとも,完全月給制の場合には,解約の申し入れは,翌月以降に対して,しかも当月の前半に行わなければならない(627条2項))は,労働者からする解約(任意退職)については強行規定と解される。そこで,2週間よりも早い時期の申し入れを義務づける就業規則条項や個別合意は無効である。」
『基本法コンメンタール 第五版 労働基準法 金子征史・西谷敏=編 2006年 日本評論社』 藤原稔弘108頁
「任意退職は,民法上,解雇と同一の規制に服し,期間の定めのない雇用契約の場合,二週間の予告期間を置けば,「いつでも」,つまり特別理由を要することなく,契約を解約することができる(民六二七Ⅰ,ただし,「期間によって報酬を定めた場合[完全月給制など]には,二項および三項で予告期間の例外が定められている。)。また判例によると,労働者の退職の自由を制限する規定(退職する場合には使用者の許可を得なければならないする規定や,予告期間を一ヶ月や半年に延長する規定)が存在しても,民法六二七条一項は,労働者の退職の自由を定める限りにおいて強行規定であるから,右のような就業規則の規定は効力を生じない(高野メリヤス事件=東京地判昭51・10・29判時八四一号一〇二頁,平和運送事件=大阪地判昭58・11・29労経速一一八八号三頁,日本高圧瓦斯工業事件=大阪高判昭59・11・29労民三五巻六号六四一頁)。
『労働契約解消の法律実務 石嵜 信憲編 柊木野一紀 宮本美恵子 2008年』 23頁
「民法627条の予告期間を超えて辞職を引き延ばすことはできない」
(3)有効説
『実務労働法講義[改訂増補版][下巻] 岩出誠 平成18年 民事法研究会』 618頁
「就業規則に特別な定めのない限り,通常は民法627条1項に従い,2週間前などの必要な予告期間をおけば労働契約は終了することになる。」
『労働関係訴訟 渡辺弘 2010年 青林書院』 112頁
「この解約に関する民法の規定は,任意規定であるから,労働契約等によって別異の合意をすることができる。」
(4)有効説と無効説の両説の表記
『労働相談実践マニュアルVer.7 日本労働弁護団 2016年』 209頁
「問題は,予告期間を2週間より長く定めた就業規則や労働契約の定めの有効性である。この点,民法627条は,労働者の不利益に変更することができない強行法規である(2週間以上の予告の定めは無効)とする説と,労働者の退職の自由を不当に拘束しない限り,2週間以上の予告期間を定めた合意も有効とする説がある。後者の考え方によれば,1か月程度の予告期間を設けることは許されよう(但し,さらに長期のの場合には,退職の自由を不当に拘束するものと評価されることが多くなろう)。」
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2017年5月30日火曜日
菅野和夫 労働法(第11版)
ご存じのとおり,菅野説は判例が出ていない争点に関して最有力の解釈指針となっています。
過去から連なる労働法の改正経緯が分かる貴重な本ですが,
それゆえに,現在の法律の内容について,わかりにくくなっているような気がします。
一部の表現内容について,わかりにくい部分が見受けられるように感じました。
初心者が読むべき本ではありませんし,社会保険労務士試験には不要です。
過去から連なる労働法の改正経緯が分かる貴重な本ですが,
それゆえに,現在の法律の内容について,わかりにくくなっているような気がします。
一部の表現内容について,わかりにくい部分が見受けられるように感じました。
初心者が読むべき本ではありませんし,社会保険労務士試験には不要です。
2017年2月28日火曜日
歩合給の残業代に関する判例
本最高裁判決は,以下の理由で,原審に差し戻しました。
「原審は,本件規定のうち歩合給の計算に当たり対象額Aから 割増金に相当する額を控除している部分が労働基準法37条の趣旨に反し,公序良俗に反し無効であると判断するのみで,
本件賃金規則における賃金の定めにつき, 通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か,
また,そのような判別をすることができる場合に,本件 賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定めら れた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断するこ となく,被上告人らの未払賃金の請求を一部認容すべきとしたものである。
そうすると,原審の判断には,割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果,上記の点 について審理を尽くさなかった違法があるといわざるを得ない。」
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
賃金請求事件
平成29年2月28日
最高裁判所第三小法廷 判決
破棄差戻
判例集等巻・号・頁
判示事項
裁判要旨
歩合給の計算に当たり売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の賃金規則における定めが公序良俗に反し無効であるとした原審の判断に違法があるとされた事例
最高裁HP
全文 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
札幌市中央区 石原拓郎 司法書士・行政書士・社会保険労務士事務所当事務所のHP http://ishihara-shihou-gyosei.com/
TEL:011-532-5970
2017年2月3日金曜日
「労働者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していた」とは,
労働者災害補償保険法
(昭和二十二年四月七日法律第五十号)
第十六条の二 遺族補償年金を受けることができる遺族は、労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であつて、労働者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していたものとする。ただし、妻(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。以下同じ。)以外の者にあつては、労働者の死亡の当時次の各号に掲げる要件に該当した場合に限るものとする。
一 夫(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。以下同じ。)、父母又は祖父母については、六十歳以上であること。
二 子又は孫については、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあること。
三 兄弟姉妹については、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあること又は六十歳以上であること。
四 前三号の要件に該当しない夫、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹については、厚生労働省令で定める障害の状態にあること。
○2 労働者の死亡の当時胎児であつた子が出生したときは、前項の規定の適用については、将来に向かつて、その子は、労働者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していた子とみなす。
○3 遺族補償年金を受けるべき遺族の順位は、配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹の順序とする。
2017年1月27日金曜日
未支給の労災保険給付の請求権者
当事務所では,未支給の労災保険給付の請求の相談,請求書の作成を承っています。
札幌市中央区 石原拓郎 司法書士・行政書士・社会保険労務士事務所
当事務所のHP http://ishihara-shihou-gyosei.com/
TEL:011-532-5970
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労働者災害補償保険法の保険給付は,民法の相続の規定の適用が排除され,労働者災害補償保険法に規定された者が保険給付の請求権者(受給権者)となります。
労働者災害補償保険法11条は,
労災保険給付について,
①受給権者で請求をし,支給決定があった者
②受給権者で請求をしたが,未だ支給決定がない者
③受給権者で請求をしていない者
が死亡した場合の,
未支給の保険給付の請求権者に関する規定です。
法11条の未支給の保険給付の請求権者がいないときは,死亡した受給権者の相続人が請求権者となります。
「生計を同じくしていた」とは,一個の生計単位の構成員であればよく,生計を維持されていることは要せず,同居していることも要しない。
生計を維持されている場合には,生計を同じくしているものと推定される。
「一個の生計単位の構成員」とは,生計費の全部又は一部を共同計算することによって日常生活を営むグループの一員であって,必ずしも同じ屋根の下にいることを要しない。
未支給の保険給付の請求権の消滅時効は,
①保険給付の支給決定前に死亡した場合には,本来の保険給付の支給決定請求権そのものであるから,消滅時効の期間は,法42条の規定に従うことになる。
②保険給付の支給決定後に死亡した場合には,未支給の保険給付の請求権はその支払を請求する権利であるから,会計法第30条後段により消滅時効の期間は5年となる。
受給権者が保険給付の請求をせずに死亡した場合,将来にわたって年金たる保険給付を受給できるわけではなく,保険給付の事由が生じた月から死亡した受給権者の死亡月までの分までに限定される。
本来の受給権者の死亡当時の最先順位者が未支給の保険給付を請求することなく死亡した場合は,次順位者ではなく,死亡した最先順位者の相続人が請求権者となる。
2人以上の請求権者が同時に請求した場合,未支給分の全額をその請求権者の人数で等分して各請求権者に支給することを禁じているわけではない。
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労働者災害補償保険法
(昭和二十二年四月七日法律第五十号)
第十一条 この法律に基づく保険給付を受ける権利を有する者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき保険給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。以下同じ。)、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたもの(遺族補償年金については当該遺族補償年金を受けることができる他の遺族、遺族年金については当該遺族年金を受けることができる他の遺族)は、自己の名で、その未支給の保険給付の支給を請求することができる。
○3 未支給の保険給付を受けるべき者の順位は、第一項に規定する順序(遺族補償年金については第十六条の二第三項に、遺族年金については第二十二条の四第三項において準用する第十六条の二第三項に規定する順序)による。
第四十二条 療養補償給付、休業補償給付、葬祭料、介護補償給付、療養給付、休業給付、葬祭給付、介護給付及び二次健康診断等給付を受ける権利は、二年を経過したとき、障害補償給付、遺族補償給付、障害給付及び遺族給付を受ける権利は、五年を経過したときは、時効によつて消滅する。
会計法
(昭和二十二年三月三十一日法律第三十五号)
(昭和二十二年三月三十一日法律第三十五号)
第三十条 金銭の給付を目的とする国の権利で、時効に関し他の法律に規定がないものは、五年間これを行わないときは、時効に因り消滅する。国に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。
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