2017年6月23日金曜日

解雇予告手当(札幌)



実務上では、解雇予告手当の請求ではなく、解雇の無効を争って、地位確認の請求をする方が多いのではないでしょうか?


労働契約法第16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定しており、


使用者による解雇は、解雇権の濫用にあたるとして無効になることが多いからです。


解雇が無効(地位確認の請求が認容)となれば、使用者には解雇予告手当よりも多額の支払いが命じられます。


以下は、解雇予告手当に関する記載です。




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A 解雇予告手当の要件事実




『労働事件審理ノート(第3版) 山口幸雄 三代川三千代 難波孝一編 2011年 判例タイムズ社』 稲吉彩子=鈴木拓児 107頁


1訴訟物

①労基法20条1項本文に基づく解雇予告手当支払請求権
②遅延損害金請求権
③労基法114条に基づく付加金支払請求権

2請求の趣旨

①被告は,原告に対し,**円(解雇予告手当の額)及びこれに対する平成○年○月○日(解雇日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
②被告は,原告に対し,**円(付加金の額)及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
③①につき,仮執行宣言

3原告:労働者側の主張(請求原因)

(1)雇用契約の締結の事実
①雇用契約締結日
②合意した労務の内容
③合意した賃金の内容(月給,日給,時給の別及びその額,締切日及び支払日)

(2)解雇の意思表示の事実
①解雇予告の有無,解雇予告がある場合はその日
②解雇日
③解雇予告日の翌日から解雇日までの日数



(3)解雇予告手当の額


4被告:使用者側の主張
(1)予想される主張
①解雇事実の否認(積極否認)
 任意退職(合意解約又は労働者側の退職の意思表示)の主張が考えられる。
②労基法20条第1項但書所定の除外事由の存在(抗弁)
③労基法21条所定の除外事由(抗弁)
④消滅時効




B解雇予告手当の解釈




『新訂版 労働基準法の教科書 労務行政研究所編集部 2011年 労務行政』 
188頁
「解雇の予告がなされても,予告期間が満了するまでは労働関係は有効に存続するのであるから,その期間中労働者は労務の提供をしなければならず,使用者はこれに対して賃金をしはらわなければならない。したがって,予告期間中に労働者が自己の都合により欠勤したときは,通常の労働関係と同様賃金を減額することができ,また,使用者の都合によって当該労働者を休業させたときは,第26条の規定により休業手当を支払わなければならない。このような考え方によれば,30日前に解雇予告した直後から使用者が当該労働者の就労を拒否すれば,その期間中の所定労働日数に対して平均賃金の100分の60に相当する休業手当を支払えば差し支えないこととなり,予告に代えて30日分の平均賃金の支払を義務づけている本条の脱法が行われるとする見解も考えられるが,予告期間中といえども労働者には民法第536条第2項のよる賃金全額請求権が確保されており,労働関係は正常に存続しているので,これを違法と解することはできない(昭24・12・27 基収第1224号)
206頁
「本条の解雇予告除外認定は,解雇の効力発生要件ではなく単なる事実確認行為と解される結果,本認定が適正になされなかったとしても,それによって権利侵害が生ずるわけではないから,その面で,これの取消しを求める行政訴訟は成立しないし,行政不服審査法に基づく審査請求を行うこともできないと解する。」



『労働関係訴訟 渡辺弘 2010年 青林書院』 65頁
「相対的無効説を前提にして,労働者が解雇無効の主張を断念した場合に,使用者に対して請求できるのは,解雇予告手当の支払か,30日分の未払賃金の支払かという問題があるが,この点に関する下級審の裁判例は,両方の見解があるし,実務的に,解雇され,解雇予告手当の支払を受けていない労働者が原告となって,解雇予告手当を訴訟物として選択して,その支払請求をしてくれば,上記の判例が採る相対的無効説によっても,認容される例がほとんどであると考えられる。また,上記の相対的無効説により,使用者が解雇の際に解雇予告手当の支払をせず,その後も支払がない場合には,労働者が労働契約の終期を解雇の時点から30日後として扱って,未払賃金の請求をしても,認容され得ると考える。


『労働契約解消の法律実務 石嵜 信憲編 柊木野一紀 宮本美恵子 2008年』 76頁
「ところで,即時解雇事由が存在する場合は,除外認定がなくとも,その解雇の効力自体は有効です(上野労基署長(出雲商会)事件=東京地判平14・7・30労判825-88)。労基法違反が残ることになりますが,即時解雇事由が存在しますので実質的に法違反とまではいえず,送検手続をとることはないというのが行政庁の見解です。」


『労働法 第2版 西谷敏 2013年 日本評論社』 405頁
「ここでいう,労働者の責めに帰すべき事由とは,即時の解雇をも正当化するほどの事由であり,労働者の非違行為を理由とする懲戒解雇が有効であっても,当然にここでいう除外事由にあたるわけではない。」


『労働法 第11版 菅野和夫 弘文堂 2016年』 734頁
「また,解雇予告のもう1つの除外事由である「労働者の責めに帰すべき事由」も,当該労働者が予告期間を置かずに即時に解雇されてもやむをえないと認められるほどに重大な服務規律違反または背信行為を意味する。懲戒解雇が有効と考えられる場合にも,このような観点から判断して解雇予告は省略すべきではないと認められる場合がありうる。解雇予告に関するこれらの除外事由は,産前産後・業務災害に関する解雇制限の除外事由と同じく行政官庁の認定を要する。この認定は上記の解雇制限と同様に,行政官庁による事実の確認手段にすぎず,行政官庁の認定を受けないでなされた即時解雇が認定を受けなかったことのゆえに無効になるものではない(事例として,上野労基署長(出雲商会)事件-東京地判平14・1・31労判825号88頁」


『労働契約法 第2版 土田道夫 2016年 有斐閣』 654頁
「解雇予告制度は,解雇(使用者による労働契約の一方的解約)を対象とする制度であるから,労働者による一方的退職や合意解約には適用されない。また,解雇の予告は要式行為ではないが(文書でも口頭でもよい),解雇を帰結する以上,明確に行われれる必要がある。解雇予告手当については,賃金支払の原則(労基24条)および消滅時効(同115条)が適用される。」


『新基本法コンメンタール 労働基準法・労働契約法 西谷敏・野田進・和田肇編 日本評論社』
古川陽二 64頁
「解雇の予告は,使用者が労働者に対し,確定的に解雇の意思を明示することを要する(全国資格研修センター事件・大阪地判平7・1・27労判680号86頁)。また,解雇の予告は,解雇の日を特定して行わなければならない。したがって,不確定な期限を付した予告や売上げが一定額に満たない場合には契約を解除するなどの条件付の予告は,本条の解雇予告には当たらない(労基局(上)295頁,クラブ「イシカワ」事件・大阪地判平17・8・26労判903号83頁)
 解雇の予告は,使用者が一方的になす労働契約の解除の意思表示であるから,民法上はこれを撤回することができない(民540②)。しかし,解雇予告の撤回によって,労働者の法律上の地位が不安定な者にならない場合には,労働者の自由な判断に基づく同意を条件に,これを認めてもさしつかえないと解される(労基局((上)296頁,昭25・9・21基収2824号,昭33・2・13基発90号)。


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札幌市中央区 石原拓郎 司法書士・行政書士・社会保険労務士事務所
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