2017年7月14日金曜日

割増賃金に関する判例(医師の年俸)

原審は,「本件合意は,上告人の医師としての業務の特質に照らして合理性があり,上告人が労務の提供について自らの裁量で律することができたことや上告人の給与額が相当高額であったこと等からも,労働者としての保護に欠けるおそれはなく,上告人の月額給与のうち割増賃金に当たる部分を判別することができないからといって不都合はない。」
として,上告人の割増賃金及び付加金に関する請求をいずれも棄却しましたが,


本最高裁判決は,
「,割増賃金をあらかじめ基本給等に含める方法で支払う場合においては,上記の検討の前提として,労働契約における基本給等の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であり,上記割増賃金に当たる部分の金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは,使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである。


本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金を年俸170
0万円に含める旨の本件合意がされていたものの,このうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったというのである。


そうすると,本件合意によっては,上告人に支払われた賃金のうち時間外労働等に対する割増賃
金として支払われた金額を確定することすらできないのであり,上告人に支払われた年俸について,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。


したがって,被上告人の上告人に対する年俸の支払により,上告人の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできない。」
として,破棄差し戻しをしました。


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やはり,最高裁は,時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分が明確になっているかどうかを重視しているようです。


問題点は,時間外労働等に対する割増賃金について,時間外労働をする前にあらかじめの賃金債権の放棄の特約として認められるかどうかですが,最高裁が採用する労働者の自由意思に基づく同意の理論によると,あらかじめの賃金債権の放棄が認められる可能性はゼロだと思われます。


また労働基準法37条には,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制することがその趣旨に含まれており,この点からも労働基準法37条は厳格に解されることになるでしょう。


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 地位確認等請求事件 
 平成29年7月7日 最高裁判所第二小法廷 判決     
結果
 その他
判例集等巻・号・頁

判示事項
 医療法人と医師との間の雇用契約において時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていたとしても,当該年俸の支払により時間外労働等に対する割増賃金が支払われたということはできないとされた事例
裁判要旨
参照法条
全文 最高裁判所HP


判決理由中の引用判例


昭和47年4月6日最高裁判所第一小法廷判決・民集 第26巻3号397頁
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51990


平成6年6月13日最高裁判所第二小法廷判決・集民 第172号673頁
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=62698


平成24年3月8日最高裁判所第一小法廷判決・集民 第240号121頁
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=82096


平成29年2月28日最高裁判所第三小法廷判決・裁判所時報1671号5頁
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86544


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http://ishihara-shihou-gyosei.com/