2017年6月18日日曜日

辞職(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
民法第六百二十七条  当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。


(1)民法627条1項の予告期間の延長について


期間の定めのない労働契約の場合で,労働者が辞職をするときにおいて,予告期間である2週間(民法627条1項)より長く定めた就業規則や労働契約の定めの有効性については,


有効説と無効説に分かれているようです。


無効説の裁判例として,高野メリヤス事件=東京地判昭51・10・29労判264号35頁が引用されることが多いようです。


高野メリヤス事件=東京地判昭51・10・29労判264号35頁
(公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会のHP https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/00425.html
「法は、労働者が労働契約から脱することを欲する場合にこれを制限する手段となりうるものを極力排斥して労働者の解約の自由を保障しようとしているものとみられ、このような観点からみるときは、民法第六二七条の予告期間は、使用者のためにはこれを延長できないものと解するのが相当である。」


『労働法 第11版 菅野和夫 弘文堂 2016年』及び
『新基本法コンメンタール 労働基準法・労働契約法 西谷敏・野田進・和田肇編 日本評論社』
には記述がありません。(高野メリヤス事件について,判例索引には引用無し。)


*なお,労働者が予告期間もなく突然退社し,会社に損害が発生した場合は,会社からの損害賠償請求が認められることがあります。
ケイズインターナショナル事件=東京地判平4・9・30労判616号10頁
(公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会のHPhttps://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/06032.html
では,労働者が突然退社したことにより損害を被った会社が、元社員との間で合意したとする200万円の損害賠償の支払を求めたところ,請求の一部が認容(200万円のうち70万円)されました。


*なお,完全月給制の場合は,民法627条2項が適用されます。


(2)無効説


『労働契約法 第2版 土田道夫 2016年 有斐閣』  633頁
「使用者は,退職の予告期間を民法627条1項の2週間よりも延長する規定を設けることもある。この種の規定も,民法627条が強行法規である以上,労働者の一方的解約(退職)には対抗できない。したがってまた,労働者が延長規定に違反して退職したことを理由とする退職金の不支給も違法とされる。」


『労働法 第2版 西谷敏 2013年 日本評論社』 398頁
「労働契約について当事者の解約の自由を定め,雇用は解約申入れの日から2週間経過することによって終了すると定める民法627条(もっとも,完全月給制の場合には,解約の申し入れは,翌月以降に対して,しかも当月の前半に行わなければならない(627条2項))は,労働者からする解約(任意退職)については強行規定と解される。そこで,2週間よりも早い時期の申し入れを義務づける就業規則条項や個別合意は無効である。」


『基本法コンメンタール 第五版 労働基準法 金子征史・西谷敏=編 2006年 日本評論社』 藤原稔弘108頁
「任意退職は,民法上,解雇と同一の規制に服し,期間の定めのない雇用契約の場合,二週間の予告期間を置けば,「いつでも」,つまり特別理由を要することなく,契約を解約することができる(民六二七Ⅰ,ただし,「期間によって報酬を定めた場合[完全月給制など]には,二項および三項で予告期間の例外が定められている。)。また判例によると,労働者の退職の自由を制限する規定(退職する場合には使用者の許可を得なければならないする規定や,予告期間を一ヶ月や半年に延長する規定)が存在しても,民法六二七条一項は,労働者の退職の自由を定める限りにおいて強行規定であるから,右のような就業規則の規定は効力を生じない(高野メリヤス事件=東京地判昭51・10・29判時八四一号一〇二頁,平和運送事件=大阪地判昭58・11・29労経速一一八八号三頁,日本高圧瓦斯工業事件=大阪高判昭59・11・29労民三五巻六号六四一頁)。


『労働契約解消の法律実務 石嵜 信憲編 柊木野一紀 宮本美恵子 2008年』 23頁
「民法627条の予告期間を超えて辞職を引き延ばすことはできない


(3)有効説


『実務労働法講義[改訂増補版][下巻] 岩出誠 平成18年 民事法研究会』 618頁
就業規則に特別な定めのない限り,通常は民法627条1項に従い,2週間前などの必要な予告期間をおけば労働契約は終了することになる。」


『労働関係訴訟 渡辺弘 2010年 青林書院』 112頁
「この解約に関する民法の規定は,任意規定であるから,労働契約等によって別異の合意をすることができる。」


(4)有効説と無効説の両説の表記


『労働相談実践マニュアルVer.7 日本労働弁護団 2016年』 209頁
「問題は,予告期間を2週間より長く定めた就業規則や労働契約の定めの有効性である。この点,民法627条は,労働者の不利益に変更することができない強行法規である(2週間以上の予告の定めは無効)とする説と,労働者の退職の自由を不当に拘束しない限り,2週間以上の予告期間を定めた合意も有効とする説がある。後者の考え方によれば,1か月程度の予告期間を設けることは許されよう(但し,さらに長期のの場合には,退職の自由を不当に拘束するものと評価されることが多くなろう)。」


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