2015年1月5日月曜日
年次有給休暇の取得(年休の時季指定権の行使)
労働者が半日単位の有給休暇を請求してきた場合,使用者に応じる義務はありません(行政解釈)。
日によって所定労働時間が異なるとき,たとえば土曜日に半ドンのような場合に土曜日に有給休暇を取得した場合でも,他の8時間の日と同様に1労働日の有給休暇を取得したことになります。
最判昭48・3・2白石営林署事件,国鉄郡山工場事件は,年次有給休暇の権利(年休の権利)は,労働基準法39条の要件を満たすことにより法律上当然に労働者に生ずる権利である,と判断しました。
最判昭48・3・2白石営林署事件,国鉄郡山工場事件は,労働者の時季指定権の行使に対し,使用者の適法な時季変更権の行使がない場合は,その指定された労働日の労働義務が免除されると,判断しました。
したがって,労働者の時季指定権の行使の際に使用者の承認は不要となり,使用者は労働基準法39条の要件を満たした時季変更権の行使という防御方法をとるしか手段はありません。
最判昭57・3・18電電公社此花電報電話局事件は,就業規則において,有給休暇日の前々日までに時季指定権行使しなければならない規定がある場合に,これに違反して当日になって時季指定権を行使した事案において,就業規則の規定は合理的なものであるから有効である,と判断しました。
最判昭48・3・2白石営林署事件,国鉄郡山工場事件は,使用者が労働者の時季指定権の行使に対して,承認しないとの意思表示をした場合は,時季変更権の行使としての意思表示にあたる,と判断しました。
最判昭57・8・5道立夕張南高等学校事件や最判平12・3・31NTT事件によりますと,当該労働者が,特定の時季において特別な業務を担当していたり,高度の専門性の高い業務を担当していたりする場合は,事業の正常な運営を妨げるとの判断がなされやすいようです。
最判昭48・3・2白石営林署事件,国鉄郡山工場事件は,年休をどのように利用するかは自由とされており使用者に目的を告知する義務はない,と判断しました。なお,最判昭57・3・18電電公社此花電報電話局事件は,使用者が時季変更権を適法に行使できるときに,労働者の利用目的の如何によっては時季変更権の行使を差し控えようとする場合は,使用者が労働者に利用目的を尋ねることは差し支えない,と判断しました。
年休の利用は,休養・旅行・スポーツはもちろん,病気療養や有償労働への従事を目的とする場合も,適法な年休取得と認められています(多数説)。
年休の権利は,労働基準法115条により2年の消滅時効にかかりますので,年休の権利の繰り越しは翌年度まで可能ということになります(通説・行政解釈)。年休の権利は,労働者に有利な繰り越し分から行使されると推定されます(多数説)。
退職を予定している労働者が退職の直前に全日数について時季指定をした場合は,使用者は他の時季に年休を与える余地がないため,時季変更権を行使することができません(多数説・行政解釈)。
年休の権利は,労働契約が終了した場合は,当然に消滅します(行政解釈)。したがって,即時解雇の場合は,年休の権利が残っていても年休の権利は消滅しますので行使できません(解雇予告期間中は,解雇日までの期間については年休の権利を行使できます。)。
年休の権利を放棄する労働契約は,労働基準法39条に違反するので無効です(通説)。
最判平5・6・25沼津交通事件は,労働基準法附則136条の年休取得を理由とする不利益な取り扱い禁止の規定は,使用者の努力義務を定めたものであり,年休取得を理由とする経済的不利益を生じさせる取り扱いについて,年休の権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められない限り,公序に反して無効とすることはできない,と判断しました。
労働上の問題は,労働者の権利行使が法律上は正しくても,労働者が団体交渉をしたり訴訟を提起したりしなければ,労働者の権利は守られないということです。
したがって,使用者が年休取得日を欠勤扱いにして給料を減額した場合,労働者が減額分の給料を取得するには訴訟提起をする必要があります。
使用者が労働者に年休を与えない場合や年休手当を支払わない場合は,労働基準法119条違反となりますが,労働基準監督署には期待しない方がよいでしょう。